- 監修:
- 東京医科大学皮膚科学分野 特任教授大久保 ゆかり先生
掌蹠膿疱症とは
掌蹠膿疱症とはどのような病気か
掌蹠膿疱症は、手のひら(手掌)と足の裏(足蹠)の両方、又はどちらかに無菌性の水ぶくれ(水疱 )や膿 のふくろ(膿疱 )が繰り返しできる慢性の病気です。症状が人目につく部位にできること、歩行時の足の痛み、関節痛を伴う場合もあり、QOL(生活の質)が低下することがあります。

掌蹠膿疱症にかかっている人はどのくらいいるか
日本国内で、掌蹠膿疱症と診断された方は、全人口の約0.1~0.2%1、2)、約14万人1)と報告されています。
女性がわずかに多く、男女比は1:1.1でした2)。
年代別では、30代~50代に多くみられ、発症年齢の平均は41.1歳でした2)。
- 1) Kubota K, st al.: BMJ Open, 5, 1: e006450 (2015)
- 2) 平野 宏文,大久保ゆかり:PPPフロンティア,3:6-10(2018)
- 質問: 掌蹠膿疱症は人にうつるの?
-
回答:
掌蹠膿疱症の水疱や膿疱は無菌性、つまり細菌などがいないものと定義されています。ですので、掌蹠膿疱症の方の水疱や膿疱に他の人が触れても、症状がうつることはありません。
掌蹠膿疱症の症状
掌蹠(手のひら、足の裏)の症状
主な症状は手のひらや足の裏にできる水ぶくれ(水疱)や、膿のふくろ(膿疱)です。
症状は小さな水疱から始まり、でき始めにはかゆみを伴うこともあります。
水疱が変化すると、中心に白血球が集まった膿疱を含む膿疱化水疱
を経て膿疱へと変わり、やがてかさぶた(痂疲
)となり、はがれ落ちます。
症状が進行すると炎症による赤み(紅斑
)が発症し、かさぶた状のもの(鱗屑
)がみられるようになります。
これらの症状や炎症を繰り返すうちに、角質が厚くなってひび割れができると歩行のたびに痛みが伴います。

掌蹠以外の症状
手のひらや足の裏以外にも、足の甲、膝、ふともも、お尻、肘などに、落屑 (はがれ落ちた鱗屑)を伴う紅斑や小さな膿疱がみられることがあります。患者さんの約30%に爪症状があらわれ3)、爪の甲に厚みが出るといった症状が特徴的です。なお、爪症状があると、QOL(生活の質)が低下するという報告4)もあります。
- 3) Hiraiwa T, et al.: Int J Dermatol, 56, 2: e28-e29 (2017)
- 4) Masuda-Kuroki K, et al.: J Dermatol Sci, 106, 1: 29-36 (2022)
骨関節症状
掌蹠膿疱症の特徴的な合併症として、骨や関節に痛みがあらわれる掌蹠膿疱症性骨関節炎
があり、掌蹠膿疱症患者さんの約10~30%にみられることが報告されています5)。
症状は、前胸壁
(胸骨、鎖骨、肋骨及びその周辺部位や結合部)に発症することが多く、これら以外にも首、背中、腰、手足などの骨に生じることもあります。
しばしば強い痛みを伴うことによりQOL(生活の質)が大きく損なわれることがあります。
患者さんによっては、これらの骨関節症状が皮膚症状よりも先にあらわれる場合もあります。
5) Sonozaki H, et al.: Ann Rheum Dis, 40, 6: 547-553 (1981)

- 質問: 自分で水疱や膿疱をつぶして中身を出してもよい?
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回答:
消毒が不十分な手や器具で、水疱や膿疱をつぶすことによって、細菌などに感染するおそれもあるのでやめましょう。水疱や膿疱による痛みが強い場合は、医師に相談しましょう。
- 質問: なぜ掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏に発症するの?
-
回答:
現時点で最も有力視されている仮説が、手のひらや足の裏には、他の部位と比較すると非常に多くのエクリン汗腺(主に体温調節のために汗を出す汗腺)が存在していることです6)。掌蹠膿疱症の病態とエクリン汗腺との関連性については以前から指摘されていました。
6) 日本皮膚科学会掌蹠膿疱症診療の手引き策定委員会: 日皮会誌, 132, 9: 2055-2113(2022)
掌蹠膿疱症が起こる仕組み
人間には、病原体などの異物の侵入から体を守るため、免疫
というはたらきがあります。その際、サイトカインと呼ばれるたんぱく質が体内で産生され、免疫を調整しています。サイトカインにはたくさんの種類があり、炎症を起こしたり、逆に炎症を抑えたりするはたらきをしています。
掌蹠膿疱症の原因は明らかではありませんが、何らかの原因により炎症を起こすサイトカインが過剰に産生されてしまい、本来、異物を排除するための防御反応が必要以上に起きてしまうことによってさまざまな皮膚症状があらわれるのではないかと考えられています。

- 質問: 掌蹠膿疱症は遺伝するの?
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回答:
掌蹠膿疱症が遺伝するという明確なデータはありません。※
※:2023年11月現在
掌蹠膿疱症の悪化因子
掌蹠膿疱症の原因は明らかではないものの、悪影響を与えるもの(悪化因子)は解明されつつあります。
喫煙
掌蹠膿疱症の患者さんの喫煙率は、約70~90%と非常に高いことがわかっています6)。
また、喫煙は掌蹠膿疱症の発症や症状悪化に関連するとされています6)。
禁煙のみで治癒することほとんどありませんが、禁煙が治療効果の向上に繋がる傾向があると考えられています6)。
扁桃炎、副鼻腔炎、歯周炎など(病巣感染)
病巣感染とは、体のどこかに軽度又は無症状の慢性の細菌感染があり、それが引き金となって、体の他の部位に別の病気を引き起こすことを言います。
掌蹠膿疱症では、扁桃炎、副鼻腔炎、歯周炎などの病巣感染が無症状で発症に関わることが多いため、患者さんご自身ではなかなか気づきにくいと考えられます。
掌蹠膿疱症の中で、いずれかの病巣がみられる頻度は約80%と言われています6)。また、病巣感染の中で歯周炎、扁桃炎が最も多くみられると報告されています6)。
6) 日本皮膚科学会掌蹠膿疱症診療の手引き策定委員会: 日皮会誌, 132, 9: 2055-2113(2022)
- 質問: 掌蹠膿疱症は金属アレルギーが関係しているの?
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回答:
一部に、金属アレルギーが関係している症例も報告されていますが7)、アレルゲンとなる金属を取り除く、例えば歯の詰め物を取り換えるよりも先に、歯周炎などの歯科治療を優先することが勧められます。実際に、歯に使われていた金属を取り除いても取り除かなくても、皮膚症状の改善度に違いはみられなかったという報告があります8)。
- 7) Nakamura K, et al.: J Am Acad Dermatol, 42, 6: 1021-1025 (2000)
- 8) Masui Y, et al.: J Eur Acad Dermatol V enereol, 33, 4: e180-e181 (2019)
掌蹠膿疱症の診断と検査
診断について
診断にあたり、手のひらや足の裏にできる他の疾患との鑑別が重要です。
例えば、掌蹠膿疱症の膿疱は無菌であるため、足の症状について足白癬
(水虫)などの感染症を除外することができます。
患者さんの症状によっては、さまざまな診療科が関わる場合もあります。
皮膚科で行う検査
ダーモスコピー
ダーモスコープというライト付きの拡大鏡を用いた検査のことで、皮膚の状態を詳しく観察します。

皮膚生検
皮膚の一部を切り取り、細胞を詳しく調べる検査です。ダーモスコピーなどでは診断がつかない場合に行います。皮膚生検は局所麻酔をして行いますが、入院の必要はありません。
真菌検査
掌蹠膿疱症と足白癬を鑑別するために、真菌の有無を確認します。
整形外科、リウマチ科で行う検査
画像検査
骨や関節に痛みがある場合、X線検査やMRI検査を行います。
歯科検診
X線検査やCT検査を行い、歯周炎などの病巣感染の有無を確認します。
掌蹠膿疱症の合併症
掌蹠膿疱症性骨関節炎
掌蹠膿疱症の合併症として最も多くみられるのは、骨関節炎で約10~30%と報告されています5)。
5) Sonozaki H, et al.: Ann Rheum Dis, 40, 6: 547-553 (1981)

糖尿病、脂質異常症、甲状腺疾患なども
骨関節炎以外にみられる掌蹠膿疱症の合併症には、糖尿病、脂質異常症、甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)、高血圧、精神科疾患(うつ、精神的ストレス)などがあります。
合併する疾患が、掌蹠膿疱症の病状や治療に影響する可能性もあるため、それぞれの治療は並行して行うことが大切です。